Research

紫外⇒近赤外(増幅)

量子切断型エネルギー移動(一光子吸収二光子発光)を利用した高輝度近赤外発光


近赤外領域に発光を示す材料は、セキュリティや情報通信分野、生体イメージングなどでの応用が期待されています。バンドギャップの狭い有機色素や量子ドットなどが近赤外発光材料として広く研究されていますが、その発光効率は、可視発光材料に比べると非常に低くくなってしまいます。そこで本研究では、エネルギー移動を介した一光子吸収二光子発光(quantum-cutting)過程を利用し、高輝度高効率な近赤外発光を可能とした新しい材料の開発を進めています。一般的な発光体は、一光子吸収一光子発光であるため、発光効率の理論限界は100%です。これに対し、一光子吸収二光子発光が可能となれば、100%を超える(最大200%)高効率発光が可能となります。

これまでに、原子配列を精密に制御した結晶薄膜の形成により、無機錯イオンから希土類イオンへエネルギー移動を介し一光子吸収二光子発光が促されることを明らかにしました。例えば、1000 nm付近に発光を示すYbイオンを高いキャリア移動度を示すペロブスカイト構造の金属イオンの一部に置換した系では、ペロブスカイト(CsPbCl3)からYbイオンへのエネルギー移動により一光子吸収二光子発光が生じます。近赤外領域の発光輝度は非常に高く60%を超える内部発光量子収率が得られています(Adv. Sci. 2020)。最近では、層状結晶の層間にYbやErイオンを配列させることに成功し、100%を超える内部量子収率や光通信波長である1550 nmでの発光にも成功しています(J. Chem. Phys. 2020)。また、高いキャリア輸送性を持つ薄膜構造は発光デバイス(LED)としても発光機能を保持することができるため、電界発光においても近赤外領域で6%の外部変換効率が得られています(Adv. Sci. 2020)。