Research

近赤外光⇒可視光(変換)

微弱な近赤外光を可視光に変換するアップコンバージョンナノ粒子の開発


アップコンバージョンとは、2つ以上の光子が連続して吸収されることで励起波長よりも短波長の光が放出される現象であり、近赤外光などの低いエネルギーの光を可視や紫外光といった高いエネルギーに変換することができます。代表的な機構として、有機系材料の二光子吸収や三重項―三重項消滅(TTA)、希土類イオンを含むナノ粒子の多段階励起などが挙げられ、生体イメージングや太陽電池応用など幅広い分野で着目されています。希土類イオンを含むアップコンバージョン材料は古くから研究がなされており、例えば、YbイオンからErやTmイオンへのエネルギー移動を介することで、980 nmの近赤外光を青・緑・赤色などの可視光に変換することができます。一方で、希土類自身の光吸収能が低いため強い励起光源(レーザー)が必要となることや、発光効率が著しく低い(1%程度)など、応用には課題が多くあります。

そこで本研究では、微弱な近赤外光でも可視光に変換する色素増感型のアップコンバージョンナノ粒子の開発を行なっています。希土類イオンの10000倍以上の高い光吸収能を持つ有機色素(インジゴ色素やスクアリリウム色素)をコアシェル構造の酸化物ナノ粒子界面で希土類イオンと錯形成させることで、太陽光よりも微弱な近赤外領域の光照射により、青色や緑色のアップコンバージョン発光を促すことに成功しています(Sci. Tech. Adv. Mater. 2019, Sci. Rep., 2017, Coord. Chem. Rev. 2020, 特許6664747など)。

太陽光の中でもエネルギーとしての利用が難しい近赤外領域の微弱な光を可視光に変換できれば、太陽電池や人工光合成、光センサーなどにおける太陽光の利用効率(エネルギー変換効率)の飛躍的な向上が期待されます。例えば、680nmに吸収端を持つCsPbI3系ペロブスカイト素子の受光層に、本研究で開発した色素増感型ナノ粒子を導入すると、750 nm以上の太陽光照射での発電が可能となります(Electrochemistry 2021, 特願2021-147994)。また、組織透過性の高い近赤外光を可視光に変換する本技術は、生体に対する診断・治療の観点からも高い注目を集めています。